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神戸地方裁判所伊丹支部 昭和49年(ワ)172号 判決

神戸市北区八多町下小名田

原告

森武一

東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番地

被告

右代表者法務大臣

稲葉修

右指定代理人

岡準三

中山昭三

風見幸信

岡崎成胤

黒川曻

丸明義

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

一、被告は原告に対し金四四万一、一〇〇円および昭和四九和一一月二二日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告)

主文同旨の判決。

第二、当事者の主張

(請求の原因)

一、原告は、訴外樫本定雄および同湯浅芳彰の仲介により昭和四七年一一月二日その所有にかかる山林を奈良不動産株式会社に売却して金二、七一〇万五、〇〇〇円の譲渡所得を得たが、樫本から昭和四七年中の売買でも昭和四八年一月になしたものとして申告するのが得策であるから、そのように取り計らつておく旨言渡したので、昭和四七年分所得の申告をなさなかつたところ、兵庫税務署長は、同年分所得として申告すべきであるとして、結局は原告において本税三六九万五、二五〇円の外、無申告加算税三六万九、五〇〇円および延滞税七万一、六〇〇円を納付しなければならないこととなつた。

二、しかしながら、原告は、右に述べた樫本の言を信用して昭和四七年分所得の申告をしなかつたにすぎず、原告の台慢から申告しなかつたものではないので、右の無申告加算税および延滞税を納付すべき義務はないものといわなければならない。

また、原告は、仲介人樫本および湯浅に対して手数料として金七〇万円を支払つているので、原告の所得から右金額を控除すれば、右に述べた無申告加算税および延滞税を納付せずにすんだはずである。

三、以上のとおり、原告の納付した無申告加算税三六万九、五〇〇円および延滞税七万一、六〇〇円は、本来原告において納付すべき義務のないものであつたので、被告は、原告に対して右金員を返還すべきである。

よつて、原告は、被告に対し、右四四万一、一〇〇円およびこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四九年一一月二二日以降支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する認否および被告の主張)

一、原告がその主張する日にその主張とおりの代金で山林を売却した事実、原告が本税三六九万五、二五〇円、無申告加算税三六万九、五〇〇円、延滞税七万一、六〇〇円を各納付した事実、兵庫税務署長が昭和四七年分得として申告すべきである旨指導した事実はいずれも認めるが、その余の事実は知らない。

二1. 兵庫税務署長は、原告の昭和四七年分所得税の確定申告がなかつたので、昭和四八年六月一六日原告に対して申告指導を行つたところ、原告は納得して期限申告書を提出し、同月二〇日本税三六九万五、二〇〇円を納付した。さらに、原告は、右期限後申告につき賦課されるべき無申告加算税三六万九、五〇〇円を賦課決定前の同年七月三一日納付し、兵庫税務署長は、同年八月八日無申告加算税を賦課決定した。また、同年九月一日原告は本税に対する延滞税七万一、六〇〇円を納付した。

2. その後、原告は、兵庫税務署長に対して右の無申告加算税賦課決定処分につき異議申立をなしこたころ、右申告が棄却されたので、さらに、国税不服審判所長に対して審査請求したが、昭和四九年三月一日棄却の裁決がなされた。

3. 以上のとおり、兵庫税務署長の原告に対する課税処分はすべて適法に確定しているので、原告の請求は失当である。

第三、証拠

(原告)

甲第一ないし第三号証を提出し、乙号各証の成立は認める。

(被告)

乙第一号証の一ないし三、第二、三号証、第四号証の一ないし三、第五号証、第六号証の一、二、第七号証を提出し、甲第一号証の成立は認める。その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

原告は、昭和四七年一一月二日山林を売却して二、七一〇万五、〇〇〇円の譲渡所得を得たが、右所得について昭和四七年分所得税の確定申告をなさなかつたこと、その後、原告は本税三六九万五、二〇〇円、無申告加算税三六万九、五〇〇円、延滞税七万一、六〇〇円を各納付した事実は当事者間に争いがない。

ところで、原告の本訴請求は、原告が昭和四七年分所得税の確定申告をしなかつたのは、訴外樫本定雄が昭和四七年中の売買でも昭和四八年一月にしたものとして扱うことができると言つたので、これを信用して申告しなかつたものであるから、この無申告の責を原告に負わせるべきではなく、従つて、無申告加算税三六万九、五〇〇円および延滞税七万一、六〇〇円を納付すべき義務はなかつたので、既に納付した右金員の返還を求めるというに帰着する。

そこで判断するに、原告の主張は、結局無申告加算税の賦課決定処分の不当、違法をいうものと解せられるところ、そうであれば、原告としては、課税処分(無申告加算税の賦課決定処分)自体を争うべきであつて、そうすることなくして、右処分の違法を前提として被告に対して納付した税金の返還を請求できるものではない。また、右課税処分が適法に確定していることはいずれも成立に争いのない乙第三号証、同第四号証の一ないし三、同第五号証、同第六号証の一、二、同第七号証に照らして明らかであるので、この点からも原告の主張は理由がないものといわなければならない。

さらに、原告は、樫本定雄および湯浅芳彰に手数料七〇万円を支払つているので、原告の所得からこれを控除すれば、無申告加算税および延滞税を納付しなくてもすんだはずである旨主張するところ、右主張はその趣旨が明確ではないが、右は結局税額に影響を及ぼす事情を主張するものと解せられるが、右の点についても課税処分自体を争う中で主張すべきであることは先に述べたとおりであり、本件課税処分が適法に確定している以上、原告の右の主張も理由がない。

以上のとおり、原告の本訴請求は、すべて理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 下方元子)

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